彼女はここから音楽人生のネクスト・フェイズを強く踏み出す。KREVAにその才能を見いだされ、2005年にリリースした1stアルバム『S.O.N』にはじまり、これまでオリジナル・アルバムをリリースするごとにSONOMIを形成するイニシャルのピースが埋められてきた。2ndアルバム『S.O.N.O』、3rdアルバム『S.O.N.O.M』といった具合に。それは、彼女の成長の記録であり、自分だけのポップ・ミュージックを追求する旅でもあった。最後のアルファベットにして、来るべき“SONOMIの完成”を予感させるこのミニ・アルバム『I』は、彼女のリアルなパーソナリティを示すものであると同時に、常にラヴソングと向き合ってきた音楽的アイデンティティを表すものでもある。rhythm zoneへのレーベル移籍第一弾にして、これまでトータル・プロデュースを担ってきたKREVAから自立し、初のセルフ・プロデュース作となった本作で、彼女は自らの素顔、音楽に対する衝動、ラヴソングを通してあぶり出す愛の輪郭を剥き出しにしている。SONOMIの『I』は、こんなにドキドキする−−。
前作『S.O.N.O.M』から1年8ヶ月。まずは、このあいだに巡らせていた思いについて語ってもらおう。
「去年の震災以降、自分と音楽のあり方についてすごく考えました。音楽って、基本的に衣食住には入らない娯楽じゃないですか。だから、震災直後は私くらいのレベルのアーティストがムダに電気を使ってもいいのかな?とか、いろいろ葛藤を覚えることもあって。でも、そんなときにKREVAさんが“自分たちが今できることでベストを尽くすことがすべてなんじゃないか?”と言っていて。その言葉にすごく救われたんです。あらためて基本に立ち返って自分の音楽を突き詰めていこう、って」
その思いは、以前からいつかは実現させたいと思っていたセルフ・プロデュースに着手するモチベーションにもなった。
「歌の精度を上げるために自分でプリプロ(※プリ・プロダクションの略称。レコーディング前に楽曲のデモ制作を行うこと)からはじめようとプロトゥールス(※現在、音楽制作現場で最も汎用的に利用されているプロダクション・システム)を買ったのが3年前で。それから少しずつ機材に慣れていって、本格的な曲作りをはじめたのが1年ほど前ですね。曲作りのうえでテーマになっていたのは、初期衝動。ひとりで曲作りをはじめた今しか出せないおもしろさを追求していきたいと思いました。私の作るトラックって“こういう音楽を作ろう”と思ってできるものではないんですよね。最初にピアノやエレピで自分の好きなコード感を導き、機材をいじりながらおもしろい音を見つけて、そこからどんどんイメージが膨らんでいくんです。最終的には最初に目指していたものとはまったく違うものが生まることもよくあって。自分で聴いても“この曲のジャンルは何なんだろう?”って思うんですよね(笑)」
彼女の言葉どおり『I』に収録されている5曲の色合いは、どれも既存のジャンルを当てはめるのが難しい。ベースとなっているのはシンセ・サウンドなのだが、純然たるシンセ・ポップとも違うし、R&B的なトラックでもない。ただ、独特のリリシズムとポップネスをたたえているのは確かだ。さらにそのトラックの上で、彼女の情感豊かな声色が、自由なフォームを描くメロディ・ラインをなぞると、並びないSONOMIのポップ・ミュージックは、鮮やかにその像を結んでいく。
「この1年は、衝動に身を任せてひたすら自分の可能性を追求するような時間でした。結果的に全部で12曲のデモができて、自分でもこんなに集中力があったんだって驚きました。そして、やっぱり本当に音楽が好きなんだなって再確認しましたね。これから苦しいこともたくさんあると思うんですけど、曲を作っている時間は何よりも楽しい。発見の連続です」
全曲ラヴソングで統一された歌詞の筆致もまた、これまで以上にエモーショナルに自らの経験やそこで沸き起こった感情を投影している。
「自分が体験したことをありのままに歌詞にしているので、自分で聴きながら“いろいろあったんだなあ、私”って思いますね(笑)。これまではプロデューサーがいたので、作詞の面でもワンクッション挟むことが多かったんですね。そこで“これどういう意味?”って聞かれたら、自分の恋愛観を詳細に話さなきゃいけない恥ずかしさがあって(笑)。でも、今回はセルフ・プロデュースですべて自己完結できるので。だから、生々しいくらい素直に自分の経験や感情を書けたんだと思います。作曲における衝動の話ともつながるんですけど、作詞のテーマは“素直に書く”ということでした。歌はどこまでも自由だから。明日はないかもしれない、と切実に思う時代で、私はシンガーとして素直に自分を表現したいと思ったんです」
失意のどん底にあったいつかの失恋から、いつの間にか完全に立ち直っている姿をポジティヴに刻むオープニング・ナンバー「何とかなる」で、彼女は自身の代表曲のタイトルを引用しながらこう唄っている。
〈「一人じゃないのよ」って歌う私を疑った日もありました〉
実際に採用するか最後まで迷ったというが、こんなフレーズを唄えるのが、今の彼女の強さでもある。あらためて、彼女にとって『I』はどんな作品になったのか。
「衝動で作ったこのアルバムのおもしろさは、未熟さだと思うんです。自分自身の手でこのアルバムを作れたことが本当に幸せだし、正直どういう評価を受けるのか怖い部分もあるけど、未来のために踏み出さなきゃいけない一歩なので。これから私の音楽がどうなっていくのか、自分でもワクワクしています」
ここから、またはじまる。シンガーSONOMIとリスナーの新たなコミュニケーションが、『I』で育まれていく。
取材・文/三宅正一(ONBU)
「女子が頑張って一人で打ち込みして、それを作品にするということを考えるとそれだけで、萌えるという、機材萌え、機材女子萌えっていうのがあるんだなぁと感じました(笑)。それを抜きにしても、シティポップというか、都会にあこがれる人の話し、都会にいるんだけれど都会の人じゃない人のシティポップというか、ほぼ大半の人に当てはまると思うけれど、それを感じました。街じゃないところでより響くのかな…とも思ったりしてます。面白い聴いたことのない感触の音楽。目線も、振られて傷ついたっていうんじゃなくて、発展的解散みたいなそんな感じの、あまりないタイプの歌だと思います。自分のプロデュース曲は、いつも通り、厳しく歌詞とか何回も直したりしながら、すごくいい歌になったと思います。」
KREVA